20世紀後半から21世紀にかけてあらゆる場面で倫理が求められることを預言した人は少ない.エマニュエル・レヴィナス(Emmanuel
Levinas, 1906-1995)は,その一人である.彼はアリストテレース以来人間にとって最も重要な学問,第一哲学を,形而上学ではなく,倫理学とした.レヴィナスはフランスの哲学者であり,その基礎をユダヤ思想に持つ.彼の哲学の出発点は,実存にあり,対面性〔face-àface〕を介した我と他者との関係を中心とした多元論的倫理学を提示した.これは顔〔visage〕を介して,我はその顔を見たらこれに対して必ず応答する〔respondere〕という責任が生ずる,と考えて,社会を構成する他者に対する倫理を提示した.この考えを支えるのは無限者が他者の顔を場として,そこに現れるという考えである.彼は実存を懸けて他者に対する責任を無限者への応答として果たす,その基礎に存在を超えて超越的価値,善を求める倫理を確立した.現代の倫理へのレヴィナスの貢献は大きい. |